インセプション
クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』を観てきた。どうもディカプリオって好きではないし、渡辺謙も格好良いとは思うけど、好きではないので観る前は微妙に不安な感じだったけど、面白く鑑賞できた。感想を書いてみる。
クリストファー・ノーランの映画って割と観ている気がするけど『メメント』以外面白くなかった記憶がある。『ダークナイト』は嫌いではないけど、面白い映画とは言えなかった。何だか盛り上がりきらないというか、寸止めとはまた違った冷徹な感じが馴染みにくい気がしていた。面白かったはずの『メメント』だって、時系列順にみてしまうとごく普通の映画だったりするし。
今回の『インセプション』は面白かった。何でだろう。何だか分かやすい映画だった気がした。全体の世界はP.K.ディックばりのメタ構造になっいるのだけど、割と丁寧に描かれているので混乱することがなかった。まるでディックの『虚空の眼』を縦に構成し直した様な物語構造。時間軸って横に流れると思うのだけど、それを上手に(映画という横に流れる時間軸の中で)縦に流している点も面白かった。
モヤモヤしたという感想をいただいたのだけど、多分それはこの映画が全然アクションシーンやらのハリウッド的な部分に気合が入っていないからではないだろうか。何だかスカッとしない。一応派手なアクションシーンはあるのだけど、全然演出が盛り上がってない。意図的に気合を抜いているとしか思えない。
多分そこはクリストファー・ノーランにとってどうでも良いことで、更に観ていて気がついたのは、描きたかったのは物語でもなく、「妻を失った主人公の悲しみと、そのどうしようもない喪失」というテーマなのかなと。そのテーマがかなり剥き出しになっていた映画だと感じた。だって物語なんてほとんどないし。だから俺にとって『インセプション』は結構分かりやすい映画だった。
映画批評家の町山智浩さんがおっしゃっていたけど、これはタルコフスキーの『惑星ソラリス』だと考えると分かりやすいのではないだろうか。確かに死んでしまった奥さんがずっと出てくる辺り、どうしようもない罪の意識に苛まれる辺り、全体に流れる黄昏感、似ている気がする。赤坂は未来都市(ソラリスには赤坂の首都高が未来都市として出てくる)として出てこないけど、日本は出てくるし。
確かに通常のハリウッド映画と比べるとモヤモヤする。俺も実はモヤモヤしているのだけど、それは結構心地の良いモヤモヤで、意図的に地味に隠された何かを必死に心理の中で探そうとしているモヤモヤなのではないだろうか。人間のすごいところって、映画にもアイデンティティを求めて心理的にシンクロ出来る所。モヤモヤして霧の向こうに何かありそうな映画を観てしまって、その喪失感にシンクロしてしまっている気がする。
出演者はディカプリオと渡辺謙はまあ気にしないとして、アリアドネ役のエレン・ペイジがとても良かった。地味なんだけど。ジェシカ・ハーパーみたいで素敵だった。そしてここの所見る映画に連続で出ているディリープ・ラオ。『スペル』『アバター』『インセプション』とここの所しょっちゅう見ている。よく出てるなあ。
そして劇伴も結構印象的で最後のクレジット観たら、ジョニー・マーがギターを弾いているのね。さすがThe Smith。暗さ爆発。で今何故か今The SmithのカバーをしているTreePeopleというCruzレコードのバンドを聴いてます。
アメリカでは大ヒットしているらしいけど、とても地味な映画。でもすごく丁寧に作られているし、観ても損はしない良い映画だと思った。あと予告等で言っている「アイデアを盗むスパイ」がどうたらみたいなのは全然映画の中にはないと思われます。物語がないので。

コメント
「インセプション」の感想ありがとうございます。「モヤモヤの正体の中に、盛り上がらないアクションの存在がある」とは、自分が「どうも乗り切れない」と感じた要因の一つだと気付かされました。あのアクションはハリウッドの映画会社にピッチするためのものだったんじゃないかな、と鑑賞後に思いましたね。
あの銃撃戦、そもそもクライマックスのはずなのに全然ハラハラしないし、映画の最初の場面が最後の場面と繋がるであろうことは予想できるから、安心して観られるアクションになってますよね。そうなると、あの夢の多重構造というアイデアを素直に受け入れられるか、という点でどうも自分は入っていけず、かといってストーリー的な部分も特に意外な部分はなかったというのが自分の感想だったように思います。映画の最初の1時間を、劇中の設定の説明に使うような映画ですから、そもそも物語を描こうとしていないと言うべきなんでしょうか。
なんだかんだいってこんな映画をつくってヒットさせたという点は評価できますし、DVDが出たらきっともう1回観ることは間違いないです。(しかし「インセプション」と前後して、「もう誰も愛さない」と「ピートバーンズ」が出てくるこのブログ、まるで自分のためにネタが振られているように感じるところがヤバいです。笑)
Posted by 1M Shock! at 2010年8月 8日 11:24
確かに最後の銃撃戦はないですよね(笑)。逆に盛り下がるという。
本当、普通に丁寧な映画だと思います。物語というよりはテーマを丁寧になぞる感じなのかな。考えると結構ややこしいですが。でも僕は案外分かりやすかったです。
確かにピート・バーンズともう誰も愛さないにインセプションが挟まれているのは気持ち悪いですね。今気が付きました。つくづく自分の興味がいかに分散しているかが分かりました…
Posted by food at 2010年8月 8日 23:33
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